続・レオタードの情事

 

1.序

 暗闇の中。ひたひたと押し寄せる手がかすみの肌をまさぐる。

(いやあ、やめてえっ!)

 必死に声を上げようとするが、なぜか、声は出なかった。手足は縛られたように動かず、かすみは横たわったまま、押し寄せる手になぶられるままだった。

 暗闇の中で、カメラのフラッシュのような白光が2度、3度瞬いた。かすみをあざ笑うかのように、くすくすという笑い声が聞こえる。そしてまた、手がぞわぞわとかすみの肌をまさぐった。

(いや! いやいや! 放してぇぇ!)

 声にならない声で絶叫し、かすみは、恐怖と絶望の淵に沈んでいった。……そこで、気が付いた。

(あっ…つ、夢……)

 気が付いたかすみは、ベッドの上によろよろと半身を起こした。悪夢にうなされた体はべっとりと寝汗をかき、肌に貼りついたパジャマが不快感をさらに増した。

(どうしてこんなことに……)

 かすみは、がっくりとうなだれ、右手で顔を覆った。少しの間その姿勢でぼんやりとした後、彼女は手を降ろしながらのろのろと室内を見回した。視線が勉強机に向いた時、彼女は、そこから視線を外すことができなかった。机は、何の変哲もないが、しかしその引出に納まっているのは、彼女を恐怖のどん底に突き落とすものであったから。

 

 彼女はそろそろとベッドを降りると、勉強机へと近寄った。膝をついて座り、引出を開ける時、彼女の手は細かく震えていた。引出の中の暗がりに手を入れると、指先に触り慣れた紙の感触があった。彼女はそれを、静かに取り上げた。

 窓から差しこむ月明かりの中に浮かび上がったのは、一封の封筒だった。明かりに透かすと、中に何か入っているのが分かる。かすみはごくりと唾を飲みこみ、封筒を開けると、中に右手の指を差し入れた。恐怖と羞恥で、彼女の胸は激しく波打っていた。

 取り出されたのは、数枚の、ラミネート加工された特殊紙――写真だった。薄暗い中では何が映っているか見えないが、しかし彼女は、これに何が映っているかもちろん知っている。知っていても、それでも改めずにはいられない。かすみは、右手を勉強机の電灯に伸ばした。

 電灯の黄色みがかった明かりに照らし出されたのは、レオタードを着た女性が、マットの上であお向けに寝そべり、淫らによがる姿だった。パールピンクの半袖レオタードを着て、脚をM字に開き、カメラに向けて腰を浮かせている。その股間には両手が添えられていた。左手ではレオタードの布をずらし、右手には表面にぶつぶつと突起のついた、派手な赤い棒を握っていた。

 2枚目の写真では、うっとりとした顔で横たわる女性の顔が大写しになっている。その女性は、右手に持ったものをしゃぶっていた。それは先の写真でも出た赤い棒で、粘液にまみれ、てらてらと光っていた。写真の顔は、見紛うことない、かすみだった。

 残りの写真も、どれもこれも同じようなものだった。露わになった自分の胸を揉むかすみ。うつ伏せの姿勢で腰を突き上げ、股間に右手のものを押し当てているかすみ。写真に映るその顔は、どれも快感に酔いしれてとろんとした表情をしている。

(嘘よ……嘘よね……あたし、こんな……)

 かすみは全身を小刻みに震わせながら、手の中の写真を食い入るように見つめ続けていた。

 

2.百合との話

 あれから3日、かすみにとっては眠れない夜が続いていた。一方不可思議な事に、学校では以前と変わらず平穏な日々が続いている。授業に出て、友達としゃべり、部活があればそれに出る。あの忌まわしい盗撮の記憶が嘘であるかのような、それまでと変わらない日々。

 それでも、例えば手洗に行くために廊下を通り、隣の教室の横を通る時。かすみはそこに視線を走らせ、相馬百合の姿を探さずにはいられなかった。彼女が写真を撮ったのは間違いない。あの時かすみは、百合の手に落ちて、陶酔の罠にはまったのだ。しまいの方の記憶はないが、間違いなかった。

 教室での百合は、かすみの事など目にも入っていないかのように、物静かに過ごしていた。彼女はすらりと背が高く、生徒の輪の中にあって目を引いた。色白で整った顔立ちと、長く伸ばした艶やかな黒髪。醸し出される落ち着いた雰囲気。ほんの一瞬かすみは、自分が見ているのは全て夢なのかもしれない、という錯覚に陥りそうになる。しかし写真は、そんなかすみの妄想を打ち砕くのだった。

 放課後、ある決心を秘めて、かすみは教室を出た。廊下からそっと隣の教室を覗くと、そこでも、丁度終業のHRが終ったところだった。生徒達が一斉に立ちあがり、一礼する。直後教室の中は緊張が解けてわいわいと騒がしくなるのだった。早々と教室から出て行く生徒もいるが、大勢の生徒はまだ教室に残っていた。一部の生徒は隅の掃除用具入れから箒や塵取りを取り出し、少しやる気なさそうに掃除の準備を始めていた。

 彼女は教室の出入り口の側に立ち、百合が出て来るのを待った。不安で胸は高鳴り、ともすると逃げ出したくなる衝動をぐっと堪え、彼女は立っていた。

 何度か、生徒の集団がわいわいと通り過ぎた後だった。不意に、百合が出入り口のところに姿を現した。彼女はややうつむき気味で、その顔には特に表情らしい表情を浮かべていない。待っているかすみの姿を認めた時だけ、わずかに眉が動いた。

 瞬間、かすみは何も言えなかった。立って、百合を見ているのがやっとだった。2人がお互いを見ていたのは数瞬、百合は黙ったまま、廊下を歩き始めた。

 はっ、としたかすみは、金縛りが解けたように百合の背中を探した。廊下の先にそれを見つけ出し、気を取り直して後を追った。追い付くと、一歩下がったところを付いて歩く。しかし、そこまでだった。肝心の声が出ない。百合は、黙ったまま廊下を曲がり、校舎外の渡り廊下へと向かった。

 周りに生徒の数が少なくなってきた。これ以上ついて歩くと、変に人目についてしまう。かすみは焦った。そっと何度か深呼吸してから、口を開いた。

「あ、あのっ。相馬さん」

 声をかけられるのを見越していたかのように、百合がぴたりと立ち止まり、振り向いた。何も表情が浮かんでいない顔が、再びかすみを見下ろしている。かすみは圧倒されそうになる自分を支えながら、口を開いた。

「あの、話が、あるんだけど…時間、あるかしら…」

 心もち、百合の目が細められたようだった。冷たさはないが、温かみも感じられない、目だった。かすみは、恐ろしさをぐっと堪えてその目を見返した。

「今日は私、部活がありますの。楢崎さんも、部活がおありでしょう」

 百合の低い声でそう答えた。口は動かしているが、なにか、別のところから響いてくるような声だった。

「私に話がおありなら、部活が終ってから、茶道部の部室においでなさいな」

 それだけ言って、百合は再び歩き始めた。

 後には、茫然と立ち尽くすかすみだけが残された…

 

 忌まわしい記憶。それは、レオタードのぴったりとした感触を肌に感じる度に、思い出してしまう。あの事件の後、パールピンクの半袖レオタードはしまい込んだままだった。体操部の練習では、新しく買ったマゼンタのレオタードを着ている。急にレオタードが変わった理由を尋ねられると、かすみは、あれは破けて使えなくなったから、と嘘を答えていた――

 2時間の部活練習はたちまちのうちに終り、かすみは他の部員共々汗を拭きながら更衣室に入っていった。これから百合の部室を訪れることになるのかと思うと、今更ながらに不安がつのってきた。

「かすみ、大丈夫? なんか顔色悪いよ」

 そう言ってかすみの顔を覗きこんだのは、同じ部員の皆瀬涼子だった。涼子は心配そうな顔で、かすみの額にタオルを当てた。

「冷汗かいてるんじゃないの? 保健室行く?」

 涼子の心配そうな顔に、かすみは胸が詰まった。涼子が欲しかったかすみ。しかし彼女は、百合と涼子の関係を知ってしまった。そのために、嫉妬に燃えて、過ちを犯してしまった――

(あ…涼子…あなたを奪いたくて、私は…)

「ん、大丈夫よ。ごめんね心配かけて」

 

 着替え終わったかすみは、荷物を持って、更衣室を出た。体育館の廊下には後片付けをする後輩達がおり、お疲れ様でした、とすれ違いざま声をかけて来た。彼女はややおざなりな会釈でそれに答え、体育館を出た。

 文化部の部室棟は、体育館横の屋内プールの、さらに横に位置する。そこへ向かうかすみの足取りは、重かった。しかし、引き返すこともできなかった。

 屋内プールの前を通り過ぎ、渡り廊下を折れると、目の前に文化部棟の入口が現れる。彼女は呼吸を落ち着けながら歩み寄ると、中に入った。入ってすぐは広場になっていて、左手に階段、正面に廊下が伸びている。彼女は、壁の案内板に目を走らせた。

(茶道部は…2階ね)

 彼女は、階段を上っていった。聞こえるのは、自分の足音だけ。文化部は体育部ほど遅くまで活動したりはしない。人の気配はほとんどしなかった。

 階段を上りきると、広場があり、廊下が右に伸びている。その廊下に足を踏み入れた、その時だった。彼女は、目に映った光景に凍りついた。

 廊下を奥に向かって、一人の生徒が歩いていた。その後姿は、見紛うこともない、皆瀬涼子だった。制服の上からでも分かる、引き締まったプロポーション。セミロングの茶色みがかった黒髪。彼女は左手にかばん、右肩から部活用のかばんを提げ、廊下を歩いていく。そしてとある扉の前で立ち止まり、ドアノブに手をかけた。その時、視界の隅に人影が映ったのだろう、彼女は広場にいるかすみの方を向いた。

 かすみは、涼子の顔に驚愕の表情が浮かぶのをはっきりと見た。そのまま、涼子は動くことができないでいた。かすみも、凍りついたまま、目の前の光景を絶望の思いで見ていた。

 半開きの扉から、背の高い1人の生徒が姿を見せた。百合だった。百合は、立ち尽くした涼子の肩を抱くようにして部室へと誘った。そして、広場にいるかすみの方を見、口許に妖艶な笑みを浮かべた。百合は笑ったままかすみをじっと見つめ、おもむろに、手招きをした。衝撃から立ち直れないまま、かすみは、手招きに導かれるように部室へと足を踏み出していた。

 

 導き入れられたのは、畳敷きの茶室だった。ただし、既に部活動は終った後らしく、部員の姿は見えない。室内にいるのは3人だけ、茶器の類もあらかた片付けられている。畳の上には、座布団が2枚用意されている。片方には、涼子が座っていた。座布団に正座し、痛々しくうなだれている…。百合は、やや奥まったところに座し、茶筅で椀の中をさらさらと混ぜているところだった。

「どうぞ、お上がりになって。今お茶をご馳走するわ」

 心乱れる2人をよそに、百合の声は涼やかだった。ようやく衝撃から覚めつつ、かすみは黙って靴を脱ぎ、部屋の隅にかばんを置くと、座布団の上に正座した。見るとはなしに隣を見ると、涼子は、顔を背けるようにしてうつむいていた。逢引きの現場を見られたショックから、まだ立ち直れていない様子だった。

 かすみの目の前に、椀がすい、と差し出された。続けて、茶菓子の乗った小皿も。百合の顔はと見上げると、澄ました風の表情で、じっとかすみの方を見ている。

「足は崩されて。そんなにかしこまることはないわ。…さ、どうぞ」

 かすみは、足は崩さなかったが、言われるがままに茶碗を手に取った。椀では茶色い濁った液が揺れている。言い知れぬ不安を心中渦巻かせつつ、彼女は両手で茶椀を持ち、口許でそれを傾けた。香ばしい苦味が、口の中で広がった。

 飲み終わったかすみが、おずおずと茶椀を返すと、続けて百合は涼子の茶を点て始めた。かすみの目の前で、百合は手際良く茶を点て終えると、音もなく涼子の前に椀を差し出した。茶菓子の小皿も、同じく続けて差し出した。

 しかし涼子は、うつむいたまま、茶に手を出せずにいた。少し顔を上げて、不安げに百合の方を見、次いでかすみの方を見、すぐさま顔を背けてしまった。かすみは、その目に、絶望にも近い不安の色を見た。

 そんな涼子の様子を、百合は黙ったまま見ていた。やおら、かすみの方に向き直ると、口を開いた。

「楢崎さん、今日は、私に話があってここにいらしたんですわね。今、少しですが時間がありますわ。どうぞお話しになって」

 百合の言葉に、かすみは再び衝撃を受けた。

(そんな…涼子のいる前で、話せというの? あんな、あんなことを、ここで話せだなんて…)

 髪の毛が逆立つ思いだった。膝の上でぐっと拳を握り締め、百合の顔を睨みつけたが、どうしようもなかった。これ以上ない仕打ちに涙がこぼれそうなのを、必死で耐えた。

「…今日は、写真の件で…」

「写真? どんな写真かしら」

「3日前、あなたが撮った写真よ。その、体育倉庫で、私を…」

 最後の方は声にならなかった。涼子の前でこんな事を口にしなければならない、その羞恥と怒りで耳の後ろが熱くなった。不審げにこちらを見ている涼子の視線を感じ、かすみは居たたまれず顔を逸らした。

「その写真が、どうしたのでしょう」

 百合の声はどこまでも静かだった。もう、かすみは我慢できなかった。彼女は畳に手をつき、座布団から身を乗り出した。

「あなた、あの写真で何をするつもりなの? お願い、他の人にあれを見られたら、私もう…」

 かすみの目から涙がこぼれた。

「お願い…助けて…もう、手は出さないから…」

 しゃくり上げるのを我慢し、それだけ言うのがやっとだった。後は、嗚咽がこみ上げ声にならなくなった。かすみは畳に手をついてがっくりとうなだれ、右手を口を塞いで声を押し殺しつ泣いた。屈辱の底にいる気分だった。

「ご安心なさいな。別に、ばら撒いたりしてあなたを貶めようなどという気はありません」

 再び、百合の声が響いた。

「それより楢崎さん、あの時気持ち良くはありませんでしたの?」

 百合の言葉の意味が分からず、かすみは泣き濡れた顔を上げた。

 百合は2人に横顔を見せる姿勢で、新しく茶を点てているところだった。しゃかしゃか、という茶筅の音に、百合の声が重なった。

「涼子さん、心配することはありませんわ。楢崎さんは、私達のことを、誰にも話されませんから」

 涼子が、不安と安堵の入り混じった複雑な表情を見せる。百合は、涼子の前にある冷めてしまった茶を下げ、代わりに点てたての温かい茶を差し出した。そしてすっと姿勢を戻すと、かすみを見つめた。

「ねえ、楢崎さん。あの時は気持ち良かったのでしょう? あんなに感じてらして」

 百合の目がすうっ、と細められた。対するかすみの目は、大きく見開かれた。

「なっ…!! 相馬さん、何を言い出す…」

「あら、ほんとの事でしょうに」

 百合は脇息を取り寄せると、右腕を乗せて寄りかかった。口の端に、かすかに笑みが浮かんだようだった。

「私の指を、2回も欲しがられましたのに」

 かすみは絶句した。涼子の前でこんなことを言うなんて、信じられなかった。叩きつけるべき言葉が見つからず、かすみは目を見開いたまま息を飲んでいた。

「最初は右の胸。レオタードの上から、軽めに揉む… ほぐすように、じっくりと。少しずつ、息が荒くなって来ましたわ」

 百合による言葉のいたぶりは続く。

「綺麗な鎖骨、そこからレオタードの中に手を入れる… 柔らかい胸を、今度は力を入れて揉むと、だんだん乳首がこりこりと固くなっていって…そこを指先でいじると…」

 かすみは百合の顔を直視できず、目を逸らした。…信じられないことに、体が火照り始めていた。局部につんと来る疼きを感じ、彼女は心中うろたえた。

(こんなはずじゃ…)

「胸を愛撫したら、次は、あそこ…。もう潤んで来てますわね。服の上からでも分かりますわ。そこを直接触ったら…? 割れ目をなぞっていって、敏感なとこを触ったら? しっとりしたあそこを、指で、縦に擦って…指先がクリに触れると…」

 脇息の上で百合の右手人指し指と中指が交差し、くねくねと動いていた。かすみの目にそれは、思わせぶりな動きにしか見えなかった。局部がじわっ、と温もるのを意識した。かすみの体は、百合の指を覚えているようだった。

「かすみさん、声、我慢なさらなくてもよくってよ」

 百合は声をひそめて、ささやくように言った。かすみは、顔を耳まで赤らめてうつむいた。百合の話に刺激されて想像力が働き始め、いつしか呼吸も荒くなっていた。

「体が熱いのでしょう、じっくり胸を揉まれて… とっても柔らかい、マシュマロみたいな乳房。乳首が固くなっているわ。指でいじると、ぴりっと来るのね。あそこも、たっぷり濡れて。これからもっと気持ちよくなるの…」

(あっ、いや……)

 脇息上の百合の右手が、親指と人指し指で何かをつまみ、転がした。気のせいか、かすみは乳首にちりちりとした刺激を感じた。思わず背を丸めて肩をすくめると、既に固くなっていた蕾がブラジャーとこすれた。

「ひぃっ」

 ほんのかすかだが、かすみの口から喘ぎが洩れた。百合の言葉だけで感じ始めている自分に気付き、かすみは眩暈がする程の動揺を覚えた。

(…だめ、だめよ、しっかりしなきゃ)

 かすみは手を握り締めると、やおら立ちあがった。よろめきそうになる足を踏みしめ、必死で立った。

「あ、あたし、帰ります!」

「あら、お帰りになるの」

 百合は少し残念そうな表情になったが、すぐさま口の端に笑みを浮かべた。落ち着きなく靴を履き、かばんを持って出て行くかすみの背中に、言葉を投げかけた。

「ではご機嫌よう、楢崎さん。…お約束の言葉、くれぐれもお忘れなきようにね」

 かすみは返事をせず、逃げるようにその場を立ち去った。

 

3.帰り道で

(相馬さん…涼子の前で、涼子の前で、あんなこと…)

 小刻みに震える体を抑えながら、かすみは足早に文化部棟を後にした。通路を曲がり、屋内プール棟と体育館の前を通り、下駄箱のある校舎へ向かった。その心を、悲嘆と怒りが代わる代わるかき乱した。涼子の前で、羞恥の経験を白状しなければならなかった。しかもその後、それを種に言葉でいたぶられた。涼子の前で、最も見せたくない側面を暴き立てられた。しかも信じられない事に、自分の体は、百合の言葉に反応した…

 そこまで考えた時。ずくん、と来る疼きが再びかすみの局部を襲った。疼きは背筋を貫いてうなじに至り、全身の肌をざわっと粟立てた。丁度体育館の前で、彼女はよろよろとよろめいた。

(えっ… どう、して…)

 体の火照りは、鎮まっていなかった。秘部の疼きはじわじわと激しくなる。太腿をぴったり合わせると、秘部が熱と湿り気を帯び始めているのが感じられた。一度かき立てられた肉の欲望は、鎮まるどころか、はけ口を求めてかすみの体を駆け巡っている。ブラウスの上から恐る恐る乳房を揉んでみると、痺れにも似た甘い快感が広がった。

(だめ…私、我慢できない…)

 表情を歪め、彼女は辺りを見回した。試みに、すぐ側の体育館入口を見てみると、鍵はかかっていなかった。

(そうだわ、施錠遅いんだっけ。……ここなら……)

 かすみはちらちらと左右を見て、誰も見ていないことを確かめた。そして、そっと体育館の中に姿を消した。

 

 体育館内をふらふらと歩いたかすみは、いつしか、体操部の更衣室前に立っていた。行き慣れていたので、自然とそこへ足が向いたのだろう。少しとろんとした目で更衣室のプレートを見上げた後、彼女は中へ入っていった。

 更衣室は、真中と壁際にロッカーを並べ、ロッカーの間に長椅子を置いた配置になっている。床には掃除の行き届いた硬めのカーペットが敷いてあり、着替え時に裸足になっても冷たい思いをしなくて済むようになっている。

 靴を脱ぎ靴下履きになったかすみは、両手に荷物を提げたまま更衣室内をさまよった。ふと、涼子のロッカーが目に留まり、彼女は荷物をどさりと床に落としてロッカーに近付いた。

 かすみはロッカーに寄りかかると、左手で体を支え、右手で服の上から胸を揉んだ。

「はぁん…」

 とろけるような快感に、かすみの口から喘ぎ声が洩れた。さらなる刺激と快感を求め、体の中で欲望が荒れ狂う。かすみは、寝がえりをうつようにロッカーに背中を預けると、乱暴にブラウスのボタンを外した。もどかしげに前を開き、ブラジャーをずり上げて、乳房を直に揉み始めた。

「あっ…はああ…」

 かすみの体から力が抜け、彼女はロッカーによりかかったまま、ずるずると床に崩折れた。乾いた唇を舐めた時、口の端からよだれが垂れた。

 焦点の合わないかすみの目に、床に転がる自分の荷物が見えた。横になって転がる体操部のかばん。涼子と一緒に過ごす、体操部のかばん。オスカーブルーのレオタードを来て、綺麗な体の涼子。蒼い布に隠された豊かな肢体…

 その時、かすみは、自分が涼子のロッカーによりかかっている事を思い出した。ほとんど無意識の内に、彼女はよろよろと立ち上がり、涼子のロッカーに手をかけた。ロッカーに鍵はかかっておらず、簡単に開いた。

 目の前に、ハンガーに吊された数着のレオタードがあった。どれも練習用のもので、色は涼子お気に入りのオスカーブルーだった。

(涼子の…レオタード……彼女これを着て…)

 もはや、かすみの激情は止めどないところまで来ていた。彼女は食い入るようにレオタードを見つめたまま、脱ぎかけた服を体から剥ぎ取っていった。下着をも脱ぎ捨て、全裸になると、かすみは小刻みに震える手を伸ばし、レオタードを1着を手に取った。

 アンダーウエアを着けず、肌に直接着る。滑らかな中に少しだけざらつきのあるナイロンの感触が、火照ったかすみの体を刺激する。足を通し、布を引き上げ、腕を袖に通していく。青い布が肌に張り付くと、裏地のない胸のところで、既に硬く尖った乳首の先端が浮き出た。

(涼子が欲しい…一緒になりたい………)

 かすみは、オスカーブルーのレオタードに包まれた自分の体を見下ろした。歪んだ悦びと肉の欲望に衝き動かされ、彼女は、両手でゆっくりと体を撫で回し始めた。その動きは、いくらもせずに、大胆に激しくなっていった。

 胸の双丘の下側に両手を添えると、人差指を伸ばし、布から浮き出た肉芽を指先で弾く。かすみは上を向いて目を細め、甘い快感を味わった。今度は右手をそろそろと下へ伸ばし、布の上から秘部を擦った。かすみはぴくんと反応し、体が前のめりになった。

 かすみは右手人差指と中指を、太腿のところから布の下に滑り込ませ、直接秘部を擦った。そこはもう十分に濡れており、触れるだけで指先がぬめってしまう。割れ目に沿って縦に擦ると、痺れるような刺激が体に広がった。

「あはぁう…だめぇ…」

 かすみは前のめりの姿勢のまま、がくんと膝を折り、床に膝立ちになった。指の動きはもう止まらず、規則的に前後に動いていた。彼女の左手が、右肩から乱暴にレオタードをひきずり降ろし、右肩と胸を露わにした。そのまま、わし掴みに乳房を揉み始める。

(涼子ぉ…気持ちいよ……)

 右手の指が、秘部の割れ目にずぶりと挿し込まれた。そのままぐちゅぐちゅとかき回すように、奥へ奥へと侵入していく。かすみは一瞬びくりと体をこわばらせると、床に倒れこんだ。ごろんと寝がえりをうってあお向けになり、大きく足を開いて、激しく指を動かした。

 刺激が広がって彼女の感覚を狂わせる。うなじに痺れるような感覚を覚え、彼女はいやいやをするように首を振った。乳房を揉む左手の動きが徐々に鈍り、右手だけが激しく彼女を責め立てた。ピストンのように指が出入りし、濡れた秘部がぬちゅぬちゅと音を立てた。

(ああ、いいっ……涼子、涼子ぉ)

 快感の高まりで、かすみの体はぶるぶると震えていた。震えながら、腰を突き出すように、膝を折り曲げた脚を限界まで開いていた。もっと激しく、もっと強く、刺激と快感を求めた。愛液でねとついた指が割れ目をぐちゃぐちゃにかき混ぜ、かすみを絶頂へと導いて行った。

「んっ、ひっ、あひいっ」

 その時、かすみの体は激しく痙攣した。抗いようのない衝動で背中ががくがくと波打ち、数瞬、何も考えられない空白に支配される。かすみの秘部がきゅっと締まって中の指を圧し、最後の刺激を送りこんだ。

 激流に流された後、波間を漂うような時間、余韻の中にあって、かすみの指は最後の仕上げをするように、膣の中でゆっくりと動いていた。曲げた脚をゆっくり伸ばしながら、余韻の愛撫は続き、甘く温かい感覚が静かに広がった。

 かすみは体中の力が抜けた虚脱状態で、カーペット敷きの床にぐったりと横たわった。肌にぴったりと張りつく青い薄衣を身に着け、右の肩と乳房は露わ、そして股間はしっとりと濡れている。激しい行為を物語るかのように、その濡れ跡は布を伝って床にまで達していた。

 

 やがて、落ち着いたかすみはよろよろと起き上がり、長椅子に腰掛けた。床に乱雑に散らばった衣類と荷物が、さっきまでの淫らな自分を暗示している。かすみは嫌悪にかられ、逃げるように立ち上がって窓へ歩み寄った。部屋の中を見たくなかった。

 窓際で暗い気持ちでうなだれている、その時、かすみは眼下を歩み行く2人連れを見た。2人は手を繋ぎ、広場を、校門へと歩いていった。――涼子と、百合だった。

 歩み去る2人の後姿から、かすみは目を逸らすことができなかった。大きく目を見開き、そのまま縛り付けられたように、じっと2人を見つめていた。震える手が胸元に伸び、レオタードの青い布をきゅっと掴んだ。

 自分と眼下の2人、その落差を意識して、激しいショックを受けていた。甘く求めあったあの2人。更衣室に忍びこみ1人でよがる自分。しかも、身に付けているのは――

(いや……こんなのぜったいいや……私、私…)

 狂おしく涼子を求める感情が、再び、かすみの心に蘇っていた。

 
 
続く
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